「ハローキティ・ストア」イスラエル進出の背景を考える(4)

パレスチナの平和を考える会のニュースレター『ミフターフ』30号(2011年8月発行)に掲載された記事(著者・役重善洋)を転載します。一部、修正・追加をしています。(→連載第1回

イスラエル経済のグローバル化とBDSキャンペーンの拡大



多国籍企業イスラエル進出と並び、ネオリベ路線のもう一つの「落とし子」は、イスラエル企業の寡占化と海外進出である。1980年代から進められていた国有企業の民営化・リストラは、少数財閥への資本の集中をもたらし、これらの巨大企業グループが海外投資を盛んに行うようになった。

このようなイスラエル経済の状況は、占領構造そのものの、一部の特権層による民営化とグローバル化をもたらしつつある。このことによって、イスラエルアパルトヘイト体制は、国際的なBDSキャンペーンに対し、より脆弱な性格を帯びるようになったといえる。

たとえば、イスラエル財閥の一つレヴ・レヴィエヴ・グループの傘下企業で、入植地の建設や開発事業を多く手がけていたアフリカ・イスラエル社は、昨年秋、入植地における事業から完全に手を引くと宣言した。その背景には、レヴ・レヴィエヴ・ダイヤモンド社など、広く海外展開していた同グループの事業に対して取り組まれた広範なボイコット運動があった。

軍需産業の民営化においてもそうした脆弱性を垣間見ることができる。90年代に民営化され、2000年にフェダーマン・グループ傘下に収まったエルビット社は、欧米各国に支社をもつ世界でも最大規模の兵器企業であるが、2009年9月、これに対しノルウェー財務省は、同国の年金基金の投資対象からエルビット・システムズ社を、その占領地における活動を理由に外す決定を明らかにした。その後、デンマークスウェーデン、オランダといった「多文化主義」を国是に掲げる国々において、年金基金や銀行、生命保険会社などによるエルビット・システムズ社からの資本引き揚げの決定が続いたのである。

兵器の輸出入や空港でのセキュリティ等において、イスラエル軍と密接な協力関係をもつエルアル航空も、やはり民営化の結果、2005年には、ボロヴィッチ・グループ傘下に入っているが、実は、このグループには、サンリオが2006年にライセンス契約しているLDI社も入っているのである(「ハローキティ・ストア」を経営することとなるのは別企業)。LDI社の親会社であるマパル・コミュニケーション社の共同設立者の二人はエルアル航空の役員でもある。そして、エルアル航空の現CEOは、レバノン侵略戦争を指揮し、戦争犯罪に問われている元イスラエル空軍司令官エリエゼル・シュケディ氏なのである。サンリオのイスラエル参入が占領への加担だということは、単なる抽象論ではない。そこに「バイバイ・キティ・キャンペーン」の意味がある。

イスラエル経済の民営化・寡占化・グローバル化は、多くのイスラエル企業や、イスラエルに進出している多国籍企業に否が応でも占領ビジネスの一端を担わせることとなってしまっており、そのことが国際的なBDSキャンペーンを拡大させる土壌を生んでいる。上述したイスラエル政府のボイコット運動に対する過剰反応はこうした状況への表層的対応だと言える。