「ハローキティ・ストア」イスラエル進出の背景を考える(5)

パレスチナの平和を考える会のニュースレター『ミフターフ』30号(2011年8月発行)に掲載された記事(著者・役重善洋)を転載します。一部、修正・追加をしています。(→連載第1回

イスラエル経済の危機とパレスチナ占領



さらに指摘すべきことは、こうしたイスラエル経済のグローバル化が、資源小国で対外貿易依存度が非常に高いイスラエル経済をますます不安定なものとしているということである。イスラエルの輸出入総額は、対GDP比でいずれも日本の約2.7倍に上る。

リーマン・ショックおよび「ガザ戦争」の影響を大きく受けた2009年度のイスラエルの経済状況を見ると、対外直接投資84%減、対内直接投資65%減、輸出22%減、輸入27%減という危機的状況が見て取れる。こうした数字は、翌年に大きく改善され、良品計画もサンリオも、イスラエルがこの危機をうまく乗り越えたという評価に基づいてイスラエル出店に動いた訳であるが、これは非常に甘い評価だと言わざるを得ない。

イスラエルは、この間の経済危機に対し、法人税の減税などの景気刺激策で対応し、表面上の経済指標を取り繕うことに成功しているが(2010年度の経済成長率は4.6%、前年は0.8%)、それは、パレスチナ人の生活のみならず、イスラエル国内の一般の人びとの生活水準までをも犠牲にした「経済成長」である。何よりも、イスラエル経済の危機は、一時的な要因で説明できるものではなく、占領構造と深く結びついた構造的なものだということをまず理解する必要がある。

オルタナティヴ情報センターのシル・ヘヴェルが詳しく分析しているように、パレスチナの軍事占領は、イスラエル経済に大きな負担となっており(軍事予算はGDP比でアメリカの約1.5倍)、その埋め合わせをしているのが、アメリカからの年間30億ドル以上の軍事援助、兵器貿易(輸出総額の約10%を占める)、軍需産業をベースにしたハイテク産業の活性化、パレスチナ経済の破壊による占領地の独占市場化、広大なパレスチナ人の土地の収奪、パレスチナ人を最下層に置いた階層化された低賃金労働力といった、占領によって得られる利益である。2008-09年のガザ虐殺でさえ、イスラエル軍需産業およびその周辺産業に対する特需によって、一時的にはイスラエル経済に貢献した側面がある。しかし、イスラエル経済全体を見渡したとき、そうした軍事占領に伴う利益がそのコストをカバーしているとは到底言えない。

イスラエルの花形産業として称賛されているハイテク部門に関して言えば、限られた経済エリートによって担われているものであって、決してイスラエル経済の全体を代表するものとはなっていない。2010年度のハイテク産業における平均賃金18,000シェケル(約40万円)に対し、イスラエル労働者の75%は、その3分の1の6,000シェケル(約13万円)以下の賃金しか受け取っていない。政府は、この分野での国際競争力を維持するために、さまざまな優遇措置を取っているが、それは、ネオリベラル政策による格差拡大に輪をかけるものでしかないのである。

軍需産業は、当面イスラエル経済の牽引力となり続けるしかないと考えられるが、それは、まさにパレスチナ人に対する占領・虐殺政策の継続を前提条件とする。イスラエルの兵器輸出は、自らが煽り続けている「対テロ戦争」の継続によって支えられているからである。

しかし、そのことは一方で、隔離壁建設に象徴される、莫大な占領経費の膨張をも意味し、経済のグローバル化に際して重要なイスラエル経済の信用性やイスラエル商品のブランド・イメージに対する決定的なマイナス要因にもなる。もちろん、国際的BDSキャンペーンのさらなる市民社会への浸透をもたらすことにもなる。しかも、防衛予算の2割を支えるアメリカからの軍事援助がこれまで通り継続される見通しはますます不透明になっている。