「ハローキティ・ストア」イスラエル進出の背景を考える(8)

パレスチナの平和を考える会のニュースレター『ミフターフ』30号(2011年8月発行)に掲載された記事(著者・役重善洋)を転載します。一部、修正・追加をしています。(→連載第1回

イスラエルがつなぐグローバル・ウルトラ・ナショナリズム


しかしながら、ナチズムへの忌避感が強いヨーロッパにおいては、排外主義の傾向が年々強まってはいるものの、それに対する反発も根強く、排外的右翼と政権との癒着はアメリカほどには見られない。ナショナリズムの世俗的性格が強いことも一因であろう。

ところが、最近、ヨーロッパの極右が、伝統的な反ユダヤ主義を修正し、イスラエルの政治家との交流を始めており、このことが、ヨーロッパにおける極右の「ノーマライゼーション」につながる可能性がある。昨年12月には、オランダの自由党党首ヘルト・ウィルダースイスラエルを訪ね、極右政党「イスラエル我が家」の党首でもあるリーバーマン外相と会談、ヨルダンが唯一のパレスチナ国家であるべきだ、と述べている。さらに同月、ベルギーやスウェーデンオーストリアの極右政党の指導者もイスラエルのヤド・ヴァシェーム(ホロコースト記念館)やナブルス近郊の入植地ハル・バラカを訪ね、入植地建設の支持を表明している。左翼やリベラリストから強い批判を受けているヨーロッパ右翼の移民排撃の主張とシオニズムパレスチナ人追放の主張とが、反イスラームナショナリズムを軸に連合し、国際的な孤立を回避しようとしているのである。

ヨーロッパにおけるこうした動きが、ブレイヴィクを強く刺激していたことは間違いない。彼は「マニフェスト」のなかで、「すべての反シオニスト、すべての文化的マルクス主義者/多文化主義者に対し、イスラエルとともに、我々のシオニストの兄弟達とともに闘おう」と呼びかけているのである。

ちなみに同じ年の5月には、日本の極右政治家、西村眞吾前衆議院議員が、日本の代表的キリスト教シオニスト・宗教民族派である「キリストの幕屋」の幹部、神藤燿の案内と通訳で、イスラエルに10日間にもわたり滞在し、建国記念式典などに参加している。彼は自身のブログ上で「今こそユダヤ人を見習い、民族が興った地への愛と、そこで形成された民族のアイデンティティーへの誇りを忘れてはならない」と述べ、シオニズムへの強い共感を綴っている。「拉致議連」幹事長でもある西村は、同じブログで、イスラエル大使から「何故、長年にわたって被害者を放置しているのか」と問い詰められたことを明かしている。ここでイスラエル大使が気にかけているのは、もちろん、拉致被害者のことではなく、日本人の反北朝鮮感情の「不十分さ」である。

この時期、ちょうど西村と入れ替わるように、来日していたリーバーマン副首相は、「イランとシリアは、核・ミサイル開発能力を持つ北朝鮮から重要な支援を受けている」と主張し、北朝鮮、シリア、イランの「悪の枢軸」に対する国際包囲網づくりで連携するよう日本政府に求めている。

このように、イスラエルは、各国における排外主義の動きを煽り、また宗教右翼や極右ナショナリストと連携することによって、ガザ虐殺後のBDSキャンペーンの広がりのなかで強く懸念されている国際的孤立からの脱却を図ろうとしているのである。