「ハローキティ・ストア」イスラエル進出の背景を考える(9)

パレスチナの平和を考える会のニュースレター『ミフターフ』30号(2011年8月発行)に掲載された記事(著者・役重善洋)を転載します。一部、修正・追加をしています。(→連載第1回

イスラエル軍需産業の日本進出とサンリオ


もちろん右翼の政治連合だけで、現在のイスラエルの危機を脱することは不可能である。もともと小さい国内市場は「中間層」の縮小によって、ますます収縮し、対外貿易では、その6割から7割を占める欧米諸国がやはり厳しい経済状況にあるなか、イスラエルは必死でアジア諸国との経済関係を深めようとしている。特に来年は、日・イ国交開始60周年ということもあり、イスラエルは積極攻勢に出ている。

こうした動きにおいても、日本のキリスト教シオニストは大きな役割を果たしている。エルアル航空の成田直行便就航に向けた動きを全面的に支援しているのは、「キリストの幕屋」や「日健総本社」などの日本人シオニストである。たとえば、「エルアル航空ファンクラブ」というブログは彼らが運営あるいは支援しているものと推測される。また、この3月末には、イスラエル軍が約60名の医療隊を東北の南三陸町派遣し、2週間にわたり活動したが、これを日本側で熱心にバックアップしたのは、アメリカ系のキリスト教シオニスト団体であるブリッジ・フォー・ピースの日本支部である。ブリッジ・フォー・ピースは、入植地のインフラ援助などのイスラエル支援を行っており、こうした活動のために日本支部毎月10万ドル以上をアメリカ本部に送金してきた(ブリッジ・フォー・ピースのサイトに掲載されていた原文はその後削除された)。

イスラエル軍需産業の日本進出も警戒が必要である。2006年にはイスラエルの軍需企業最大手イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社が、三井物産合弁会社を作っている。報道されているのは、民間機部門に関する事業提携であるが、日本の軍需産業トップである三菱重工との提携を模索しているともある。また、三菱重工は、今回事故を起こした福島第一原発等にも多くのプラント設備を納入している原発企業でもあるが、その福島第一原発における対テロのセキュリティ・システムを2010年に納入したのが、イスラエルのマグナー社であることが分かっている。マグナー社は、国際法違反の隔離壁などに設置する赤外線センサーをイスラエル軍に納入している。

しかし、占領や戦争に依存する軍需関連の経済交流だけでも、やはり、広範で、安定した2国間関係を築くのには限界がある。よりソフトな分野の経済関係や文化・学術交流によってイスラエルのブランド・イメージをアップし、イスラエル経済の反人道的・犯罪的側面を隠す必要があるのである。

2008年、海外ライセンス事業を拡大するために幹部に抜擢され、サンリオ米国法人のCOO(最高業務執行責任者)と欧州法人のMD(最高業務執行責任者)を担っている鳩山玲人氏は、第二次インティファーダに対する弾圧が凄惨を極めていた2002年〜03年頃、当時働いていたエイベックス・ネットワークにおいて、イスラエルと共同でソフト開発事業を行い、同国を複数回訪問している。2003年4月に開催され、彼が講師を務めたビジネス講座の案内文には、無邪気にも「(イスラエルとの)2国間開発を世界情勢にもめげずおこなう」と書かれている。そのときの経験や人脈が今回のイスラエル出店において活かされていることは間違いない。ネオリベラリズムの波に乗ったハローキティは、イスラエルパレスチナ人虐殺を隠ぺいする「イチジクの葉」になるべくしてなったのだと言える。